専業主婦の私は自分のお小遣いというものをもらっていない。
正直なところ、食費を切りつめたり光熱費を節約したりして、自分の化粧品代や美容室代を捻出している。
夫はというと「オレ、営業やから見た目大事!」と毎月いがぐり頭に3000円もかけて変わり映えのしない大切な見た目を保っている。
そんな私は美容室に行くのも遠慮がちになる。
夫はいい人なので、「いつでも行っておいでよ。」と言ってくれるが、我が家の財布が「行っておいでよ」状態ではないんだよ。
そんなこんなで、ショートカットだった私もいつの間にかミディアムになり、現在はロングヘアになっている。
行きつけのヘアサロンは地元では少し高い目の値段設定で有名なお店なのだが、高いだけあって技術はしっかりとしていてパーマやカラーの持ちも良い。
いつものようにヘアサロンに行って、パーマとカットをお願いしていたある時、美容師さんが、「モロッカンオイル、ご存知ですか?」と聞いてきた。説明を聞いてみると、少量で効果抜群の洗い流さないヘアトリートメントだという。
「今日のスタイリングの仕上げにつけることもできますので、おっしゃってくださいね」と手渡された茶色い瓶はちょっとおしゃれで、バニラのような良い香りがしてきた。
「ふ~ん。モロッカンオイルねぇ・・・。どうせ高いんでしょ。」と大して興味がなかった私はボ~~ッと茶色いモロッカン片手にお茶を飲んだり雑誌を読んだり、時間が過ぎるのを待っていた。
ずっとモロッカンを手に持たされたままだったので、テーブルの上に置こうかと手を伸ばしてみるけど椅子が遠すぎるのか、私の手が短すぎるのか届かない。
私の状況はというと、頭にはギトギトに薬剤ががついてる上に何だかアラビアンな感じにタオルとラップが巻かれていて、その上をまるい円盤がブーンと回っている。
こんな状態で、立ちあがってまでモロッカンを返しに行くのも変だし、困ったなぁと悩んでいると、店長さんがやってきて、
「このモロッカンオイル、レディーガガや、アンジェリーナジョリーが使ってるんですよ。セレブでしょ~?」とささやきながら私の手からモロッカンを受取り、消えていった。
「え?マジ?ガガ使ってんの??」と一気にモロッカンが気になりだした私。セレブに弱いのである。
それからずっと頭の中はモロッカン。モロッカンである。
あんなに手元にあったのに。もっとよく見りゃよかったよ。
そんな後悔をしつつ、わずかな希望、「スタイリングの仕上げに~」の言葉が脳裏をよぎる。
「絶対つけてやる」そう決めた私は「スタイリングの仕上げ」を静かに待つことにした。
ようやくスタイリングの仕上げの時間になり、「ご希望ございますか?」の言葉を言われた私。
「モロッカンオイルで~~~!!!」と言いたいのに、何ということでしょう。
モロッカンという言葉をど忘れし、頭の中に出てくるのは「ガガも使っているセレブオイル」の店長さんの言葉だけ。
何も言わないこのままじゃ、いつものスタイリング剤で終わってしまうぅぅ~~!と、焦った私から出た言葉は
「ガガオイルで!」
「へ?あぁ、モロッカンオイルでございますね!」
優しい美容師さんの「へ?」が少し気になったけど、分かってくれてありがとう。無事にモロッカンオイルをつけることができたよ。
いいにおいだよ。髪の毛サラサラだよ。これで私もセレブだよ。ご満悦の私に「購入されますか?」の言葉。
セレブから専業主婦へと戻った私が目にしたものは、「モロッカンオイル100ml 4200円」の文字・・・。
私はセレブになれなかった。
凹む私に、「お誕生月はスタイリング剤が半額で購入できますよ♪」と美容師さんの言葉。
数か月後の誕生月に私はようやくセレブになったのです。